従来の雇用不安、それに加えてのコロナ禍とリモートワークの普及で、
様々な副業に注目が集まっています。
転売はもっとも簡単に始められる副業の1つですが、
商品の流通に悪影響をもたらすなど、その弊害も指摘されています。
この記事では転売と、
その転売をビジネスとする「転売ヤー」と呼ばれる人たちについて考えてみます。
転売とは
転売とは、
「誰かから購入したものを、さらに第三者に販売すること」
と定義されます。
一般的な「販売」はメーカーや卸問屋から仕入れることになります。
これに対し「転売」では消費者向けの店 (小売店) や個人から商品を入手することを意味しますので、
この小売店の有無が販売と転売の違いということです。
転売ヤーとは
転売ヤーとは、「転売 (てんばい) 」と「buyer (バイヤー) 」を組み合わせた造語です。
品薄の限定商品や生活必需品などを買い占め、フリーマーケットなどで高値で転売します。
文字通り「右から左に商品を流す」だけで、送料などのコストを除いた大部分が転売ヤーの利益となります。
当然、消費者が転売ヤーに良い印象を持つことはなく、
その怒りの矛先は転売ヤーだけでなく、転売対策を行わない店舗にも向かうことになります。
転売ヤーは700年前から存在した?
2021年9月、転売に関して、久我真樹氏によるツイートが話題になりました。
久我氏が読了した中世ヨーロッパに関する本の内容が、現代にも通じるものがあるというのです。
→ 久我真樹氏のTwitter
それは「神を哲学した中世 ヨーロッパ精神の源流」(八木雄二 / 著 新潮選書) という本で、
神学者・哲学者であるヨハネス・ドゥンス・スコトゥスが転売人を批判している部分です。
すなわち、輸送せず、保管せず、勤勉によってより良い売り物を得ることもしない人たち、
引用元:八木雄二「神を哲学した中世 ヨーロッパ精神の源流」(新潮選書)
また商品の価値について無知な買い手が保証されることもなく、
売買に必要なこうした条件をまったく考慮することなく、ただちに売るために今買う人たち、
こういう人たちは国家から追放されるべきである。
清廉潔白 (せいれんけっぱく) な学究の徒であるスコトゥスが、
転売を生業とする人たちを心の底から軽蔑していたことがよくわかります。
スコトゥスの名前にはなじみがないかもしれませんが、
現代の哲学者ジル・ドゥルーズに大きな影響を与えた人物として知られています。
もしあなたが中世の神学やニュー・アカデミズムに興味があるなら、
「神を哲学した中世 ヨーロッパ精神の源流 」の一読を薦めます。
転売ヤーの何が問題なのか
転売ヤーと呼ばれる人たちによって、一体どのような問題が引き起こされるのでしょうか。
ここでは3点挙げてみます。
購入者の金銭的な負担
転売ヤーの買い占めによって、消費者は通常では考えられない高額での購入を強いられます。
転売ヤーが組織的に、かつ大規模に商品を買いあさることで商品の希少性を高め、
販売価格を不当につり上げるからです。
消費者サイドに転売ヤーからの購入を控える動きが出てきても、
彼らは、また別の人気商品をターゲットにして活動の場を移していくだけです。
その姿はまさに、骨の髄までしゃぶるハイエナを連想させます。
メーカーの利益を奪う
転売ヤーの介入により、消費者だけでなくメーカーも多大な迷惑を被ります。
商品の需要増加が消費者の純粋なニーズなのか、
それとも買い占めによる一時的なものなのかの判断は非常に困難です。
判断を誤った結果、増産のタイミングを間違えれば、
商品を過剰に供給したり、逆に在庫を抱えたり、収益のチャンスを失うことになります。
市場の動向はただでさえ読みにくいものですが、転売ヤーがその混乱に拍車をかけています。
ブランドイメージの悪化
新商品の発売の告知があり、実際に店舗に行ってみると、
すでに転売ヤーに買い占められていて購入できない。
インターネットで買おうとしても、あまりにも高額で手が出ない…
このようなことが何度も続くと消費者はもはや購入をあきらめ、
深刻な「ブランド離れ」の現象が起きます。
消費者が同じブランドの商品を繰り返し購入するのは、「ブランドロイヤルティ」があるからです。
ちなみにブランドロイヤルティとは、あるブランドに対する消費者の忠誠心のことを言います。
消費者がこのブランドロイヤルティを持っていれば、リピートで購入してくださるため、
メーカーは長期的な利益を期待できます。
しかし転売ヤーの価格操作によって
「このブランドの商品は購入しにくい」という負のイメージが定着してしまうと
消費者のブランドロイヤルティの低下につながり、メーカーにとっては大打撃となります。
転売ヤーを擁護する人も
消費者、メーカー双方に悪影響を及ぼし評判の悪い転売ヤーですが、
少数ながら彼らを擁護する人たちもいます。
転売ヤー擁護派の意見は、おおむね以下の3点に集約されます。
- 安く買って高く売るのは商売の基本であり、問題視すること自体がおかしい
- 小売店は在庫が完売するから問題はない
- 転売ヤーのおかげで「買える人」もいる
買えないからと言って転売ヤーを批判するべきではない
このような意見は早くからあり、一定の説得力があるようにも思われます。
しかし意見を述べる人の立場や、またその表現の仕方によって
購入者、消費者の側は複雑な感情を持たされることになります。
模型雑誌「月刊ホビージャパン」の編集者が高額転売を容認するツイートを連投して、
多くのプラモデルファンの反感を買うことになりました。
その結果、問題の編集者は退職へと追い込まれました。
また、このプラモデルの転売問題に関して
「学術博士」の肩書を持つ経済学者の方が、やはり転売ヤーを擁護するツイートをし、
その際「プラモをやってるガキ」という挑発的な表現を使ったため炎上に発展しました。
このような状況では建設的な議論は期待できず、感情論の応酬になってしまいます。
いつまでたっても問題は解決しないでしょう。
転売ヤーがもたらす世界
確かに、転売それ自体に法的な問題はありません。
先ほども書いたように転売ヤーの買い占めによって、
企業はむしろ在庫リスクを抱えなくても済むようになります。
しかし、これはあくまでも短期的な話です。
仮に、転売ヤーの買い占めと高額転売が長期間繰り返されていけば、
大部分の、資金力が乏しい消費者は購入をためらうようになります。
そうなると従来の消費者は減少し、さらにメーカーは新規の消費者も開拓できない状況となり、
市場そのものが先細って枯渇していくことになります。
これは経済学で言うところの、「共有地の悲劇 (コモンズの悲劇) 」の典型です。
オープンアクセスの市場で希少価値のある商品を奪い合えば、あとに残るのは荒れ地だけです。
まとめ
転売ヤーは悪なのか。あなたはどう思いますか?
彼らはサプライチェーン (商品が生産されてから消費されるまでの一連の経済活動) の中に含まれず、
自らサプライチェーンを作り出そうともしません。
よって、小売業者ではありません。
また彼らは商品そのものを求めておらず、市場原理を無視して価格を操作して、
メーカーには還元されない儲けを手にすることを目的にしています。
つまり、一般的な消費者とも違います。
転売ヤーとは、まさに700年前にスコトゥスが指摘した通り、
「ただちに売るために今買う人たち」であり
小売り業者から見ても消費者から見ても、うとましい存在であることは確かでしょう。
しかし経済的自由主義においては、
個人の自由な経済活動は最大限に尊重されるべきです。
経済界も、マーケットが過剰に法律で規制されることを望んではいません。
つまり転売ヤーは法的に悪なのではなく、倫理的な部分においてのみ悪だということです。
結局、現時点では、転売行為を取り締まる法律はありません。
2019年6月に「チケット不正転売禁止法」が施行されましたが、
チケット以外の商品に関しては何ら対策がなされていないのが実情です。
ただ転売ヤーに法的な規制がかけられないという理由で自由にさせていたら、
最終的にマーケットは枯渇し、経済の停滞を招くことになります。
国からの指導を待つようなことをせず、
メーカー各社が独自で実効性のある転売対策を講じる段階に入っています。